BREATH

BREATH

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"Another Weightlessness" feat. Renshi Chokai
"Another Weightlessness" feat. Renshi Chokai
"Another Weightlessness" feat. Renshi Chokai
"Another Weightlessness" feat. Renshi Chokai
"Another Weightlessness" feat. Renshi Chokai
"Another Weightlessness" feat. Renshi Chokai
"Another Weightlessness" feat. Renshi Chokai
"Another Weightlessness" feat. Renshi Chokai
BREATH
 私が「生と死」という存在に触れたのは、水の世界と深く関わってからのことだ。
それは、写真をはじめるよりもずっと前のことである。
その時たまたま誘われたダイビングで、初めて見た水の中の世界は、私の心を一瞬で奪った。
水の中でしか起きない様々な現象。生命体と水と光が織り成す美しい現象。
それらは、私に強い高揚感と興奮をもたらした。
その世界では、地上のように歩くことも難しく、天候によっては立ちいることさえできない。
訓練と用意周到な準備が必要である。
何より息をする量にも限界があるのだ。
 
そんな不自由だらけのこの世界で、
生物が生きて行く上で最も重要な「呼吸」というものにこの作品ではフォーカスをあてている。
 呼吸は私達生命体、特に生物が生きる上で必要不可欠な存在である。
生きている間、
「それ」は耐えず繰り返し行われ、失われることで死と判断される。
普段、目にすることもなく、意識することなどほとんど無いように思う。
生と密着している「それ」と分離されることでその本質の価値と存在に向き合うことができる。
 
それが水の中である。
水に覆われて、人の中にある恐怖が表面化する。
その上、呼吸ができないという状況によって、生への執着が露呈するのである。
そのもがき、予想できない姿を私は写真におさめていく。
 思いどおりに動かすことのできない姿に、私は人の「生きる」事を重ね合わせた。
人は「生きる」中で様々な困難にぶつかる。
どれだけ人の手によって不自由の壁を壊そうとも、それには限界があり、本質が変る事はない。
その不自由さもまた「生きる」ことである。
 
生命の本質は平等に与えられる死に抵抗しながらも生きるべき道を進むことではないだろうか。
それは、計算や科学で動かせるものではない。
生とは目に見える美しさだけではなく、
生まれながらに持ちえる真のあるべき強さなのでは無いだろうか。
Carbonation Series
BREATHのプリントの支持体は漆喰である。
消石灰とも呼ばれるこの素材は、空気中の二酸化炭素を吸い込みながら、時間をかけて石へ戻っていく性質を持つ。
撮影した側の息を、別の物質のうえに預けておくという取り決めが、この連作の前提になっている。


1、息が、素材を硬くする

ここでいう「息」は、人体が出す二酸化炭素のことだ。
水中で息を止め、束の間だけ生を維持する身体。その最後の吐息が、写真のフレームのなかに閉じ込められたとき、像そのものはすでに時を止めている。
しかし、その吐息のもとになった二酸化炭素は、撮影の瞬間から独立して大気中へ拡散し、どこかの漆喰の表面にゆっくりと届く。
漆喰側では、消石灰 Ca(OH)₂ が空気中の二酸化炭素と結びつき、炭酸カルシウム CaCO₃ と水へと変わる。
反応式:Ca(OH)₂ + CO₂ → CaCO₃ + H₂O
この反応が進むほどに、表面は結晶化し、硬度を増す。人の側が息をやめても、素材の側は二酸化炭素を吸い込みながら硬くなる。
人の呼吸が尽きるところで、物質のほうは静かに力を得ていく。
支持体に漆喰を選んだ理由は、ここにある。写真が撮影時に止めた「呼吸の終わり」を、被写体の生死と素材の時間を同じ一次元に置くため。
支持体が乾いて固まるという物質現象のうえに、もうひとつの「呼吸の痕跡」が重ねられる。

2、フレスコ以来の古い約束 ── 「像と素材を、同じ一次元に置く」

フレスコ以来、漆喰は芸術の支持体となってきた。ミケランジェロは1508年から1512年、湿った石灰鏝塗りに顔料を据え、壁が乾く前に描き切らねばならなかった。
あの壁画が壁と一体の石として残っているのは、漆喰が顔料を結晶のなかに取り込み、像そのものを石へ変えてしまうからだ。化学式は『BREATH』の漆喰と同一である。
フレスコは、描く側(画家・息)と支えられる側(漆喰・硬化)の時間が同じ画面のうえで同時に走る表現だ。
『BREATH』はこれを数ヶ月から数年という遅延のうえに引き伸ばし、被写体の息と素材の硬化を時間差で接続する。
紙や金属、布では、像は支持体のうえで別の物として並んでいるだけだ。
漆喰では、炭酸化の進行がそのまま像の保存構造に結びつき、色材は結晶に内包され、像は石の一部となる。
フレスコと『BREATH』の差は、画家の息と壁の硬化が同時刻の競争関係にあるか、年単位のラグで接続されるか、という一点にある。
結語 ── 息を、後世の石に残す
時を止められた身体の像が、漆喰の時間のなかで再び動き出す。被写体の吐息を吸い込みながら、消石灰は炭酸カルシウムへと変わる。
息は、忘れる前に、もうひとつの物質に預けておけば、石の形になって残せる。
『BREATH : Carbonation』は、人が忘れがちな呼吸と、忘れられない石を手渡し合う表現だ。


参考文献
Hingst’s Signpost, 『The Chemistry of Buon Fresco Painting』(2018)
ミケランジェロのブオン・フレスコの化学反応と500年以上の保存を扱う。URL: https://hingstssignpost.blogspot.com/2018/08/the-chemistry-of-buon-fresco-painting.html
Fresco School, 『What Is Fresco? — Fresco Painting Introduction』
湿った石灰鏝塗りに顔料を据えるフレスコの基礎。URL: https://frescoschool.org/fresco_introduction_what_is_fresco_painting.html
Ars Pictoria, 『Fresco Painting Materials』
漆喰の硬化過程で顔料が表面に固定される議論。URL: https://arspictoria.com/techniques/fresco-painting/
Wikipedia, 『Sistine Chapel ceiling』
ミケランジェロによる1508–1512年の天井画制作期間を確認。URL: https://en.wikipedia.org/wiki/Sistine_Chapel_ceiling

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